四十路母ちゃんの断酒日記

44歳の主婦が依存に闘いを挑む記録を可能な限り赤裸々に綴ります♪

呆気なく死んでしまった彼の話

 

二足のわらじで、夜な夜なスナックで働いていた時の話。

 

当時の私は18〜20歳。

 

小さなスナックだったが客の年齢層は幅広く、私よりも少し年上くらいの兄さん達も来るし、戦争を経験したおじいちゃん達もよく訪れる店だった。

 そのお客さんの中には有難いことに私に会うことを目的として来てくださる方もいて、若かった私は、その中のひとりの人と外でもたまに会うようになった。

 

ママは、彼はとてもお金持ちだから損はないと言った。

 

私は、そういう事は別にして、彼のことが好きだった。

 

いつしか、深い関係にもなっていた。

 

ある時、些細なことで喧嘩別れをした。

 

その数日後、ママから彼が入院したと聞かされた。

大したことはないようだが、一度店の皆で見舞いに行こうという話だった。

 

ケンカと言っても些細なことで、ちょっと「こないだはゴメン」って言ってくれたらそれで良かった。

 

だから、ゴメンを聞いたら私もゴメンって言おうと思って、次の休みにでも先に一人で見舞いに行く予定でいた。

 

企業勤めをしながら夜のバイトをしていたので、平日の日中には時間がなかったのだ。

 

入院したと聞いて数日、その週のうちに、ママから「彼が死んだ」と聞かされた。

 

何の冗談かと思ったけど、喪服を持っているか聞かれ、通夜の日時と場所を言われ、良くしてもらったんだから出席するよう言われ、冗談ではないことを知った。

 

入院して、ほんの4、5日で、容体が急変したのだそうだ。

 

棺の中の物言わぬ彼と対面し、現実なのだと理解した。

 

産んであげることは出来なかったが、彼の子を授かったこともあったのだ。

その相手が、白い顔をして冷たくなり、あらゆる所に綿を詰められ、横たわっている。

 

ケンカの原因って何だったっけ。

思い出せないほど、しょーもないことだったんだ。

どうだっていいケンカなら、しなくても良かった。

しなければ良かった。

 

こんなことになるなら、もう会えなくなるなら、些細なことで腹をたてるんじゃなかった。

 

お互い酔っ払って、どうでもいいことに腹を立てて、しなくてもいいケンカをして、

…そして二度と会えなくなった。

 

もうゴメンねも言えない。

 

詳しい病名などは、家族でも何でもない「浮気相手」である私に伝えられることは無かったが、彼の妹さんから酒が原因だったと後から聞いた。

 

ママは「彼はね、太く短く生き過ぎちゃったのよ。」と言った。

 

なんだか分かるような気がしたのは、そんな生き方ってやつをすぐ隣で見ていたからかな。

まさにそんな感じだと思った。

 

その夜は、帰っても怖くて怖くて眠れなくて、全部の電気とテレビを点けて布団に入ったことを今でも覚えてる。

 

この時にも、酒の恐さは十分に感じたはずだった。

ああいう風に飲んだら私もああなるんだ、とも思った。

 

白眼をむいて泡を吹く人、調子が悪いと思って病院に行ったらそのまま入院になり、たった数日で逝ってしまった人。

 

他にも、壊れていく人も見たし酒で身をもち崩す人も見た。

普段とても穏やかなのに、酒が入ると悪い方向に人が変わるってのもたくさん見た。

店で始まった酔っ払い客同士のケンカも、何度間に入ったか分からない。

 

 

酒は怖いもの。

簡単に人の命を奪うこともあるし、それとは気付かせずにじわじわと少しずつ殺すこともある。

 

人生を奪うことなど、簡単な事なのだ。

 

こんな体験をしておきながら、いつの間にか自分も酒に取り憑かれていた。

 

何気ない顔をして、友達のように近寄って来るもんなんだな、酒ってやつは。

そして、さも私のことを誰よりも分かってくれているかのように振る舞うんだな、酒ってやつは。

 

やめるんだ、私。